Sir William Oslerの有名な言葉に“人は血管とともに老いる”があります.一方、高齢者社会である今日では“Successful Aging”とのことわざがあり“健やかに老いる”ことを意味しています.

動脈は内膜・内弾性板・中膜・外弾性板.外膜で構成されており、心臓からの強い力で押し出された血液を受け止めるために弾力性と柔軟性を持ち合わせています.動脈硬化は一種の老化現象ですが、これはこの動脈の層が厚くなったり硬くなったりして弾力性や柔軟性が失われた状態です.

血管がしなやかな健常者の血管は、ゴムチューブのように伸展性があり拍動(脈波)は血管壁で吸収されゆっくりと伝わります.ところが血管が土管のように硬くなっていると、拍動(脈波)は血管壁で吸収されないため、早く伝わり、血管や臓器にダメージを与えてしまいます.

動脈硬化には同年齢のかたでも個人差があり、併存する疾患(高血圧症、糖尿病や高脂血症など)の他に、食事・喫煙・飲酒・ストレス・日頃の運動量など様々な生活習慣の違いによって大きく影響されることが判っています.
そこで当院は血管の硬さ(baPWV:脈波伝播速度)と動脈の詰まり(ABI:足関節上腕血圧比)を同時に測定出来るformPWV/ABI(オムロンコーリン社)を導入しました.この機械は両手両足に血圧計のマンシェットを巻き約5分間で測定が完了します.患者さんにも判りやすい検査結果が直ちに発行されます.すでに診療に活用していますが、血管年齢が実年齢相応と結果が出た患者さんがいれば、実年齢よりも20歳以上も高く出た患者さんもおります.やはり血管年齢が高く出ると患者さんはガックリしてしまいます.でも、なぜこのような高い数値が出たのかを説明し、降圧目標の見直しや生活習慣の改善を勧めると納得していただけるケースが多いのです.

降圧剤、脂質代謝改善薬やエイコサペンタエン酸(EPA)などで血管の硬さ(PWV)を改善することが証明されています.薬に頼らなくても減塩や北の冷たい海で取れる脂身の多い魚(イワシ・ニシン・サバ・サケなど)の摂取などの食事療法やジョギング、サイクリング、ウォーキング、スイミングなどの有酸素運動を習慣的に継続することで動脈の硬さを改善させることも報告されています.

是非ともこれを機会に動脈硬化度を測定し、生活習慣の改善の動機づけに役立てて頂きたいと思います.